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メディアが見逃した中国の対日融和


2015年5月1日
富坂 聰


4月22日、バンドン会議出席のためにインドネシアを訪れた安倍首相は、約半年ぶりとなる中国との首脳会談を行ないました。出発直前まで首脳会談が実現するか否かはっきりせずメディアをやきもきさせましたが、フタを開けて見れば会談はすんなりと実現、しかも習主席はAPECでの硬い表情とは打って変わって笑顔でした。

冒頭のやり取りでも、「最近、(政府)双方と両国民の共同努力のもとで中日関係はある程度、改善できた」と柔和な表情でこう切り出した中国の習近平国家主席に対し、安倍首相も、「日中関係が改善しつつあることを評価したい」と応じるなど和やかな雰囲気が伝えられました。

実は中国が対日宥和の姿勢を示すことは、昨年11月末に開かれた中央外事工作会議と今年3月の全国人民代表大会により予測されていたことでした。中国はたくさんのサインを発していましたが、日本のメディアがこれをスルーしてきたのです。結果、バンドンでの中国の対応が〝サプライズ〟となったのです。

中国の変化は常に微小です。とくに政治分析ではこの見分け方が重要です。「整理する」と「整頓する」とでは天と地ほど意味が違い、日本語と同じ意味の整理に対し、整頓には必ず「粛清」や「切り捨て」の意味が伴います。

日中関係では「日本が過去の歴史を正視し……」という言葉の次に来る言葉の微小な変化を見逃せないのですがね、今回に限って変化は大胆でした。日本のメディアがスルーしただけです。

そんなわけで予測された対日宥和は、日本では〝サプライズ〟となったわけですが、その後の日本の分析にも首をかしげざるをえません。

その一つが中国の変化を「日本からの投資が激減し中国経済も失速している」からと説明したことです。しかし対中投資の減少は世界規模で起きていて中国自身も経済の構造転換を進めているのですから理由になりません。経営者の視点からすれば単に有望な投資対象ではなくなっただけです。

それ以前に、そもそも中国は変わったのでしょうか。中国にはいまも党内左派と貧困層に反日勢力は健在です。爆買いに来る中国人はもともと対日感情は悪くありません。

本来日本が目指すべきは、政府や理性的な中国人が日本を肯定的にとらえられる環境の整備でした。現状、反腐敗で人心をつかんだ習近平がその環境を創出したのです。これは日本にとってまたとないチャンスなのですが、日本はそれに気づくことはできるのでしょうか。心配です。