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ヒラリー・クリントンの外交政策演説


2016年6月15日
佐藤丙午


2016年11月の米国の大統領選挙に向け、民主党と共和党の大統領候補者が決まってきました。両党ともに、7月に開催されるそれぞれの党大会で候補者が正式に決まりますが、民主党ではヒラリー・クリントン元国務長官(以下クリントン)が、米国の歴史上初めて女性が党の大統領候補者となり、共和党の候補者のドナルド・トランプ氏と大統領の座を争うことになるようです。

大統領選挙は、米国内の政治状況を知る機会であると共に、政策論議を通じて次期政権の政策を予想することができます。政策議論の先陣を切り、6月2日にクリントンはサンディエゴで外交・安全保障政策を発表しています。クリントンは、演説の大部分を自らの主張をトランプと対比させることに割き、自身の方が大統領(軍の最高司令官)として適任であると主張しています。この手法は、上院議員、国務長官、そしてファースト・レディーであったクリントンの実績を考えると、さすがに少々「大人げない」印象を受けます。ただし、それだけトランプとは明確な違いが存在するという、彼女の主張がストレートに反映されているものなのかもしれません。

そのような観点から演説を読むと、クリントンはこれまでのトランプの主張を完全に否定することに力点を置いていることに気付きます。またクリントンの主張は、現実主義的なオバマ大統領とも大きく異なり、「米国を例外的な国家」と位置づけ、その外交・安全保障政策に特別な責任を自ら付託するなど、国際主義と国際制度主義の結合を主張しています。トランプが(場合によってはオバマ大統領も)、国益を重視した実際的な外交(彼は極端な表現も好みますが)を好むのとは対照的な姿勢であるといえます。

その上でクリントンは、6つの重点分野を明確にしています。それらは、米国社会の基盤強化(強い経済と貧富の差の縮小)、同盟国との協力関係の維持(メキシコとの関係も強調)、米国外交の多角化(外交や開発などの手段の重視)、ライバルとの関係(強固な姿勢を保ちつつ合意を実現)、テロとの対決(ムスリム社会との関係を重視した策)、米国の価値の重視(道義を反映した軍事作戦等)となっています。このように、クリントンの政策演説は、彼女自身の主張に加え、トランプがなぜ大統領に「危険で不適任」であるかを浮かび上がらせるものになっています。

ただし、クリントンはオバマ政権でも問題となった「人道的介入」のタイミングや根拠、また軍事作戦の在り方に関する議論を避けています。また、トランプが同盟関係の再交渉を主張するのに対し、クリントンは同盟関係の意義を主張しつつ、具体的な役割分担については明言していません。つまり、クリントンは積極的な外交政策を主張して、ともすれば孤立主義的なトランプの主張との対比を明確にしようとしていますが、そこで彼女が踏み込まざるを得ない争点は、冷戦後の米国の各政権を苦しめてきた問題でもあるということです。クリントンの主張には賛成できる部分は多いのですが、それがそのまま実現できないことが分かるだけに、今回の演説の意義が明確になります。

次期政権の政策論議は始まったばかりです。今後の展開にも注目していきたいと思います。