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祖父は保守、父はリベラル


2016年10月15日
名越健郎


永田町を席巻する二世、三世、四世政治家の中で、安倍晋三首相ほどファミリーの絆を重視する政治家はいないでしょう。

2006年の第一次政権発足に合わせて出版した『美しい国へ』(文春新書)では、「祖父(岸信介元首相)は国の将来をどうすべきか、そればかり考えていた真摯な政治家。身内ながら誇らしく思う」と書き、父・安倍晋太郎元外相についても、「政治家は自らの目標を達成するためには淡泊であってはならない。父から学んだ大切な教訓である」と記しています。

一期目に失敗した後、再チャレンジし、二期目を成功させたのも、ファミリーのレガシー(伝統)を守る強烈な使命感があったと思われます。

安倍首相にとって、昨年の安保法制採択や集団的自衛権の憲法解釈変更は、日米安保改定を進めた祖父・岸元首相の路線に沿うものでした。プーチン・ロシア大統領と首脳外交を進め、北方領土問題を解決して平和条約を締結しようとするのは、父・安倍元外相の政治的遺言です。

ここで気になるのは、岸元首相が保守本流だったのに対し、安倍元外相は竹下元首相と連携するなど内外政策でリベラルな政治家だったことです。

1980年代、中曽根首相が派手な首脳外交を展開する陰で、安倍元外相は「創造的外交」を掲げて日ソ交渉再開やカンボジア問題で独自性を出そうとしました。「日中友好」の時代、虐殺で悪名高いポル・ポト派を含む三派連合政府を支持し、同派の後ろ盾の中国外相と笑顔で握手するシーンを、筆者は記者としてバンコクで目撃したものでした。

晩年に病を押してモスクワを訪れ、ゴルバチョフ・ソ連大統領と握手するのも現場で目撃しました。この時、安倍、ゴルバチョフ両氏は、「自民党とソ連共産党の公式関係樹立」というややグロテスクな合意を結び、安倍氏はペレストロイカ支援のための「8項目提案」を行いました。

安倍首相の対露経済支援も「8項目」で、首相は5月にソチでプーチン大統領に経済協力構想を表明した時、「父の提案も8項目だった」と想起しました。領土交渉の決戦となる12月の日露首脳会談の舞台を地元の山口県にしたのも、ファミリーへの帰属意識と思われます。

安倍首相は日米同盟強化や対中、対北朝鮮政策では祖父の保守強硬路線を踏襲し、対露政策では父のリベラル路線を継承しているかにみえます。このあたりに、安倍外交の微妙な陥穽があるかもしれません。