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2016年米国大統領選挙について


2016年12月1日
佐藤丙午


2016年の米国大統領選挙の結果、共和党のドナルド・トランプ候補が選挙人の過半数を制し、新大統領になることになりました。

トランプ氏の勝利は、多くのメディアや研究者の予想を覆すものでありました。選挙前はトランプ氏個人の資質や、共和党主流派からの距離、さらにはオバマ大統領が固めた民主党の支持基盤の強固さなどの要因から、トランプ氏の劣勢が予想されていました。

実は、共和党は過去数回の大統領選挙において、一般投票数を伸ばすことができていません。このため、共和党は従来の支持基盤を固めた上で、民主党が優勢な州を獲得する必要がありました。選挙戦を戦う上で、これは二正面作戦を意味します。共和党支持層をターゲットにすると、全米規模の評価は得られず、競合州でも優位を獲得できません。しかも、民主党優勢州を標的にしてリベラルな政策を打ち出しても、特に都市部で共和党の支持が拡大する保証もないのです。

このような背景の下、トランプは幾つかの要因が重なり、勝利を得ることになります。
一つには、クリントンの大統領としての資質問題があったのは確実です。ヒラリー・クリントン氏個人には、大統領になる資質が十分に備わっていたのは言うまでもありません。しかし、クリントン氏はビル・クリントン元大統領の時代より政治の中心に居続けたことで、クリントンという名前が「ワシントン」や「エスタブリッシュメント」の象徴とみなされるようになったことがマイナスに作用しました。また、米国の中産階級の危機が進む中で、クリントン氏が政治的嗅覚を最大限に生かして、中産階級から抜け出した「成功者」であることへの感情的な反発もあったと思います。

もう一つの要因は、グローバリゼーションと米国社会の変革に対する、社会の広範な懸念の存在だと思います。しばしば、2016年の選挙でトランプを支持したのは「白人貧困層」であるとか、「グローバリゼーションの敗者」であるなど評価されています。しかし、様々な調査分析を見る限り、トランプは中間層以上の支持が高く、場合によってはグローバリゼーションの担い手層からの支持も高いように思えます。つまり、現状に絶望した有権者ではなく、今後さらに変化が進んだ場合の米国社会への影響を懸念する、現在の社会の中核層からの支持が高かったようです。トランプの主張の「荒々しさ」に懸念を抱きつつ、選挙前は支持を明確にしないまま、選挙当日はトランプに投票した有権者が多かった、ということなのかもしれません。

2016年選挙の結果に従って、今後4年間の政権運営がなされます。選挙期間中のトランプの主張が、必ずしも米国の利益になるものではないのは明白ですが、選挙結果を尊重しなければならいのも事実です。2017年は米国社会や米国と世界の関係に関心を持つ者にとって、忙しい年になりそうです。