中国: 南シナ海の戦略的地位
2017年2月1日
鈴木祐二
中国人民解放軍の「南部戦区」司令員に海軍北海艦隊司令員だった袁誉柏提督が就任しました。戦区クラスの司令員に陸軍出身者以外が就くのは初めてです。南海艦隊(南シナ海での海洋主権やシーレーン確保が主要任務)指令員だった沈金竜提督が海軍司令員に昇格し、その後任に海軍副司令員の王海提督が就任しました。同提督は空母・遼寧を率いる空母部隊司令員だったことから、初の国産空母の南シナ海配備を見据えた人事で、これで北海・東海・南海の3艦隊司令員全員が入れ替わりました。
習政権は今年末までに兵力30万人削減の方針を掲げていますが、海軍については逆に増員するとの見方が強まっています。2016年2月1日、陸軍中心の七大軍区制を廃止、東・西・南・北・中部の五大戦区へと改編し、陸・海・空・ロケットの4軍を統合的に運用する体制としました。他にも従来の四総部を廃止し、中央軍事委員会隷下15の職能部門へと大規模な改革がなされました。中国は中央軍事委員会(習近平主席)による集中的で統一的な統制を可能にし、同主席による直接指導体制の強化を目指しているようです。
こうした人民解放軍内の体制改革と海軍重視の傾向に、中国にとっての南シナ海の戦略的地位が高まりつつあるのを感じます。日米の戦略的計算をより複雑なものにし、自らの戦略的選択肢を増やすことを目指す考え方は、「諸力の相関関係(corelation of forces)」を重視した冷戦時代のソ連邦の戦略思考を彷彿とさせます。
南シナ海における中国の領有権と資源に関する主張(海外事情HP 2016年8月1日参照)を、ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、国連海洋法条約に基づく権利を超えて行使する法的根拠はないと全面的に斥けました。南沙諸島における7つの地物(人工島)建設は、海洋環境保護義務に違反するが、今のところ軍事活動には当たらないとしつつ、ミスチーフ礁など3カ所を「低潮高地」、ファイアリークロス礁など4カ所を岩だとしました。海洋法条約の加盟国である中国はこの判断に従う義務があるが、仲裁裁判の法的拘束力を無視するとして、逆に東シナ海を含めた南シナ海周辺海域での海軍艦艇や海警局の公船による活動を活発化させ、空母・遼寧の訓練航海に象徴的意味を持たせています。
米国防総省『中国の軍事・安全保障の進展に関する年次報告書(2016)』によれば、南沙諸島7つの地物埋め立ては2015年末までに3200エーカー超に達したとされ、これは東京都豊島区の面積に匹敵する広さです。7つのうち3つの地物には3000m級の滑走路を建設し、フィリピンの米軍基地に近いスカボロー礁への地物建造を匂わせています。これが完成すれば東シナ海同様に中国は南シナ海にも防空識別区の設定が可能となります。南シナ海北部海域を核の報復力(第二撃能力)たる戦略原潜(SLBM/SSBN)の海洋要塞とし、さらに南沙諸島周辺海域では、日米の重要なシーレーンを扼する態勢も採れます。とはいえ日・米・豪の海上兵力との全面衝突となれば、双方の戦力比から判断して、中国の海軍力と7つの地物(不沈空母)を即座に無力化することはそれほど難しくありません。
マハンの地政学にいう「現存艦隊(fleet in being)」主義を採って構えるよりも、公海自由の原則(自由海論)の恩恵を受ける方が、中国の国際政治上の地位向上のためには賢明な選択です。しかし、全国人民代表大会開催を控える習近平共産党政権にとっては、むしろ国内政治上の観点の方がより重要なのかも知れません。
鈴木祐二
中国人民解放軍の「南部戦区」司令員に海軍北海艦隊司令員だった袁誉柏提督が就任しました。戦区クラスの司令員に陸軍出身者以外が就くのは初めてです。南海艦隊(南シナ海での海洋主権やシーレーン確保が主要任務)指令員だった沈金竜提督が海軍司令員に昇格し、その後任に海軍副司令員の王海提督が就任しました。同提督は空母・遼寧を率いる空母部隊司令員だったことから、初の国産空母の南シナ海配備を見据えた人事で、これで北海・東海・南海の3艦隊司令員全員が入れ替わりました。
習政権は今年末までに兵力30万人削減の方針を掲げていますが、海軍については逆に増員するとの見方が強まっています。2016年2月1日、陸軍中心の七大軍区制を廃止、東・西・南・北・中部の五大戦区へと改編し、陸・海・空・ロケットの4軍を統合的に運用する体制としました。他にも従来の四総部を廃止し、中央軍事委員会隷下15の職能部門へと大規模な改革がなされました。中国は中央軍事委員会(習近平主席)による集中的で統一的な統制を可能にし、同主席による直接指導体制の強化を目指しているようです。
こうした人民解放軍内の体制改革と海軍重視の傾向に、中国にとっての南シナ海の戦略的地位が高まりつつあるのを感じます。日米の戦略的計算をより複雑なものにし、自らの戦略的選択肢を増やすことを目指す考え方は、「諸力の相関関係(corelation of forces)」を重視した冷戦時代のソ連邦の戦略思考を彷彿とさせます。
南シナ海における中国の領有権と資源に関する主張(海外事情HP 2016年8月1日参照)を、ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、国連海洋法条約に基づく権利を超えて行使する法的根拠はないと全面的に斥けました。南沙諸島における7つの地物(人工島)建設は、海洋環境保護義務に違反するが、今のところ軍事活動には当たらないとしつつ、ミスチーフ礁など3カ所を「低潮高地」、ファイアリークロス礁など4カ所を岩だとしました。海洋法条約の加盟国である中国はこの判断に従う義務があるが、仲裁裁判の法的拘束力を無視するとして、逆に東シナ海を含めた南シナ海周辺海域での海軍艦艇や海警局の公船による活動を活発化させ、空母・遼寧の訓練航海に象徴的意味を持たせています。
米国防総省『中国の軍事・安全保障の進展に関する年次報告書(2016)』によれば、南沙諸島7つの地物埋め立ては2015年末までに3200エーカー超に達したとされ、これは東京都豊島区の面積に匹敵する広さです。7つのうち3つの地物には3000m級の滑走路を建設し、フィリピンの米軍基地に近いスカボロー礁への地物建造を匂わせています。これが完成すれば東シナ海同様に中国は南シナ海にも防空識別区の設定が可能となります。南シナ海北部海域を核の報復力(第二撃能力)たる戦略原潜(SLBM/SSBN)の海洋要塞とし、さらに南沙諸島周辺海域では、日米の重要なシーレーンを扼する態勢も採れます。とはいえ日・米・豪の海上兵力との全面衝突となれば、双方の戦力比から判断して、中国の海軍力と7つの地物(不沈空母)を即座に無力化することはそれほど難しくありません。
マハンの地政学にいう「現存艦隊(fleet in being)」主義を採って構えるよりも、公海自由の原則(自由海論)の恩恵を受ける方が、中国の国際政治上の地位向上のためには賢明な選択です。しかし、全国人民代表大会開催を控える習近平共産党政権にとっては、むしろ国内政治上の観点の方がより重要なのかも知れません。