南極大陸の現状と権利「放棄国」日本
2017年8月1日
鈴木祐二
英国スウォンジー大学研究チームは、南極半島北側にある「ラーセンC」棚氷の一部が7月10~12日に約5800㎢にわたって分離し、三重県や茨城県に匹敵する広さの氷山(厚さ200m以上)になったと発表しました。棚氷(ice shelf)とは、南極大陸上の氷河や氷床が海に押し出され、それが陸上の氷と連結したまま海上にあるものです。氷山形成の原因は、棚氷融解のいつも通りのメカニズムで、海面が直ちに上昇する恐れはありません。
大西洋に面した北を上に「象の横顔」を想像した時、大きな耳の部分にあたるのが東南極大陸、目や口や鼻が西南極大陸です。南極横断山脈(約3000㎞)によって東西に二分されています。今回分離したラーセンCは長い鼻(南極半島)中央部付近の上側(北側)にあり、ここの棚氷が分離し、平たいテーブル型の氷山となったのです。南極大陸は他の大陸から切り離され独立した唯一の大陸で、最高峰ビンソン・マシフ山は海抜4897mです。大陸の約95%が氷の下にあり、その氷の全体積は約3000万㎦で、地球上にある氷全体の約90%を占めています。この氷がすべて溶ければ海面が少なくとも57.5m上昇すると予測されています。
南極大陸には、12ヵ国によって採択され1961年に発効した「南極条約」という特殊な条約(南緯60度以南に適用)があります。現在の締約国は53ヵ国で①平和利用に限定(軍事基地の建設、軍事演習の実施等の禁止)、②領土権主張の凍結、などを決めています。日本は原締約国で、南極条約協議国(29ヵ国)の一員として責務を果たしています。同条約第1条の平和利用は今のところ遵守されていますが、第4条の領土権主張の凍結については原署名国の中で意見の相違があります。自国の領土権を主張しているクレイマント7ヵ国(イギリス、フランス、オーストラリア、チリ、アルゼンチン、ノルウエー、ニュージーランド)と、自国の領土権を主張せず、他国の主張も否認するノン・クレイマント5ヵ国(日本、ベルギー、ドイツ、デンマーク、オランダ)があり、アメリカとロシアは一応、後者の立場をとりつつも、過去の活動を特別の権益として領土権を留保しています。
国連海洋法条約に基づく排他的経済水域や大陸棚等が、南緯60度以南の南極条約地域に適用されるか否かについては専門家の間で意見が別れ「法的真空状態」です。南極大陸には豊富な資源が埋蔵されています。平均約2000mの氷に覆われているため採掘が難しいのですが、技術的に可能になれば領有権を主張し続けることに重要な意味が出てきます。アルゼンチンは民間人を越冬させ、現地で出生させるなど既成事実づくりに熱心です。旅客機を国内線として運航するオーストラリアが領土権を主張している地域内に、中国は長城基地と中山基地(滑走路つき)を有し、海抜約4000mの内陸部に崑崙基地を新たに設営しました。南極大陸での資源争奪戦に備えた布石でしょう。
日本は、明治時代の白瀬隊の実績により米露同様「特別の権益」を有しますが、サンフランシスコでの対日平和条約第2条(e)項によって南極の領土に関する一切の権原・権利を放棄させられた「放棄国」という独特の地位です。将来の資源開発競争において不利な立場を余儀なくされます。特殊な原締約国としての発言力をより高めるため、何らかの手を打つべきだと思います。
鈴木祐二
英国スウォンジー大学研究チームは、南極半島北側にある「ラーセンC」棚氷の一部が7月10~12日に約5800㎢にわたって分離し、三重県や茨城県に匹敵する広さの氷山(厚さ200m以上)になったと発表しました。棚氷(ice shelf)とは、南極大陸上の氷河や氷床が海に押し出され、それが陸上の氷と連結したまま海上にあるものです。氷山形成の原因は、棚氷融解のいつも通りのメカニズムで、海面が直ちに上昇する恐れはありません。
大西洋に面した北を上に「象の横顔」を想像した時、大きな耳の部分にあたるのが東南極大陸、目や口や鼻が西南極大陸です。南極横断山脈(約3000㎞)によって東西に二分されています。今回分離したラーセンCは長い鼻(南極半島)中央部付近の上側(北側)にあり、ここの棚氷が分離し、平たいテーブル型の氷山となったのです。南極大陸は他の大陸から切り離され独立した唯一の大陸で、最高峰ビンソン・マシフ山は海抜4897mです。大陸の約95%が氷の下にあり、その氷の全体積は約3000万㎦で、地球上にある氷全体の約90%を占めています。この氷がすべて溶ければ海面が少なくとも57.5m上昇すると予測されています。
南極大陸には、12ヵ国によって採択され1961年に発効した「南極条約」という特殊な条約(南緯60度以南に適用)があります。現在の締約国は53ヵ国で①平和利用に限定(軍事基地の建設、軍事演習の実施等の禁止)、②領土権主張の凍結、などを決めています。日本は原締約国で、南極条約協議国(29ヵ国)の一員として責務を果たしています。同条約第1条の平和利用は今のところ遵守されていますが、第4条の領土権主張の凍結については原署名国の中で意見の相違があります。自国の領土権を主張しているクレイマント7ヵ国(イギリス、フランス、オーストラリア、チリ、アルゼンチン、ノルウエー、ニュージーランド)と、自国の領土権を主張せず、他国の主張も否認するノン・クレイマント5ヵ国(日本、ベルギー、ドイツ、デンマーク、オランダ)があり、アメリカとロシアは一応、後者の立場をとりつつも、過去の活動を特別の権益として領土権を留保しています。
国連海洋法条約に基づく排他的経済水域や大陸棚等が、南緯60度以南の南極条約地域に適用されるか否かについては専門家の間で意見が別れ「法的真空状態」です。南極大陸には豊富な資源が埋蔵されています。平均約2000mの氷に覆われているため採掘が難しいのですが、技術的に可能になれば領有権を主張し続けることに重要な意味が出てきます。アルゼンチンは民間人を越冬させ、現地で出生させるなど既成事実づくりに熱心です。旅客機を国内線として運航するオーストラリアが領土権を主張している地域内に、中国は長城基地と中山基地(滑走路つき)を有し、海抜約4000mの内陸部に崑崙基地を新たに設営しました。南極大陸での資源争奪戦に備えた布石でしょう。
日本は、明治時代の白瀬隊の実績により米露同様「特別の権益」を有しますが、サンフランシスコでの対日平和条約第2条(e)項によって南極の領土に関する一切の権原・権利を放棄させられた「放棄国」という独特の地位です。将来の資源開発競争において不利な立場を余儀なくされます。特殊な原締約国としての発言力をより高めるため、何らかの手を打つべきだと思います。