グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  中朝接近

中朝接近


2018年4月
富坂 聡


3月末、北朝鮮の金正恩委員長が電撃的に中国を訪問したことは、朝鮮半島を取り囲む情勢を一変させました。

情報が明らかになり始めた26日、日本のメディアは「厳戒態勢」、「金正恩と検索してもできない」と大騒ぎでした。

中朝関係において相互の訪問は非公式が基本です。金正日時代にも中国政府はいつも、トップの乗った列車が鴨緑江を渡るころ、「訪問していた」と公表していました。

これが変わったのは、北朝鮮トップの訪中が中国のネチズンたちの攻撃対象になってからのことです。国内でのスケジュールが非公開とは「ふざけるな!」ということで、鉄道関係者や歓迎宴の準備をしているホテルの従業員が、ネットに情報を流し、ついには金正日委員長の姿が先回りしたメディアによってとらえられるまでになってしまったのです。
ですから今回も「金正恩」で検索してもほとんど情報には行き当たりません。正しくは「三代目のデブ」という三位の中国語、「三胖子」で入力しなければならないのです。
三胖子下午到北京――。

情報が世界を駆け巡って以降、日本には厳しい環境ができあがりつつあります。欧米メディアの多くは、安倍政権が「蚊帳の外」におかれたと報じました。

この期に及んで、「日米の圧力が効いたから北朝鮮が中国にすり寄った」という解説が聞かれるのはあまりに情けないと思いますが、内心では誰もが北朝鮮の外交能力をみとめたのではないでしょうか。

私は早くからお隣の文在寅大統領も外交巧者であると指摘してきましたが、朝鮮半島の人々はなかなか侮れません。

では、北朝鮮は再び中国に体重を預けたのでしょうか。
ありえないことです。

考えても見てください。北朝鮮、いや金正恩政権が国民に対し自らの成果を誇りたいと思えば、米軍の影響力を朝鮮半島から退け、統一に向けて筋道をつけることです。いずれも米国に接近した方が早道なことは明らかでしょう。

つまり、どういうことか。今回の訪中は、北朝鮮がもし思い切った対米シフトをしたとしても中国が妨害できないような環境をつくるためだったと考えられるのです。
訪中の直前、中国は米朝会談で蚊帳の外に置かれるとの危機感を抱いていました。そこに手を差し伸べたのが北朝鮮なのです。

私は今回の動きは、2014年とそっくりだと書いてきました。その経緯は拙著『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)を見ていただきたいのですが、その中で「突然の米朝国交正常化も視野に」と警告してきました。