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『我々の共通の将来を安全にするために:軍縮のアジェンダ(Securing Our Common Future: An Agenda for Disarmament)』について


2018年6月
佐藤丙午


5月24日にアントニオ・グテーレス国連事務総長は、国連軍縮部より軍縮を再強化することを目的とする新たな報告書(『我々の共通の将来を安全にするために:軍縮のアジェンダ(Securing Our Common Future: An Agenda for Disarmament)』)を発表しました。この報告書は、国際の平和と安定をめぐる環境が大きく変化し、新たな冷戦と呼べるような国家関係が生じていること、国内および地域的な紛争が頻発し、都市部での戦闘などによる文民の死傷者が増加していることなどを背景に、軍縮の役割を再強化する必要を強調しています。

報告書では、軍縮を通じて21世紀に非軍事化を通じた安全保障を実現する必要があるとしています。その上で、「人道性を救う軍縮」、「命を救う軍縮」、「将来の世代のための軍縮」そして「軍縮のパートナーの強化」に分けて提言しています。軍縮の政策手段の道具箱(toolbox)には、破棄、禁止、不拡散、規制、削減・制約、透明性・信頼醸成、修復などが存在します。国家間並びに国内存在する対立点が、軍事衝突に至らないよう、また不幸にして衝突に発展した場合でも、被害を最小にするよう軍事のレベルを下げることが重要です。報告書では、その上で先に挙げた四つのアジェンダの推進につき、具体的内容があげられています。

「人道性を救う軍縮」では、核兵器と生物化学兵器が取り上げられています。2017年は核兵器禁止条約交渉が成功したことで、国際社会は逆に核軍縮への展望が見え難くなってしまいました。報告書では、既存の核兵器に関連する国際条約の規範の意義の再確認を求めています。

「命を救う軍縮」では、近年多発している都市における戦闘を念頭に置き、IEDの規制や、武装ドローンなどの新技術の使用が既存の国際法の再解釈へと向かわないことの重要性を強調しています。同時に、小型武器の過剰蓄積や違法流通の問題に取り組む意義を主張しています。

「将来の世代のための軍縮」では、無人兵器システムなど、新たに出現する兵器が、既存の国際法の規範を損なわないよう、産業界などに責任ある開発を求めています。さらに、「軍縮のパートナーの強化」では、これまで軍縮分野で進められていた、市民社会との協力に加え、既存の地域機構や女性など多様なアクターとの連携を深めることを求めています。

報告書は、以上のアジェンダを進めることで、国際対話や交渉を再活性化し、新たな刺激を得ることで、軍縮に向けたモメンタムを創造する意義を強調しているのです。ここで述べられたアジェンダは、必ずしも革新的なものではありませんが、古典的な国際政治に戻りつつあるように見える国際社会において、国家間の協調の結果である軍縮を通じた平和の可能性を再確認することを求めている点に、重要な意義があるのです。