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新型コロナウイルス


2020年2月
富坂 聰


2月4日、日本のメディアは一斉に「中国指導部が新型コロナウイルス対策での対応の不備を認めた」といった趣旨の報道をはじめました。「認めた」のは、他でもない習近平国家主席だというのです。

中国で謎の肺炎が流行っているとの話題が明らかになって以来、日本のメディアはずっと「SARSの教訓が活かされず、隠ぺい体質によって引き起こされた〝人災〟」としてこの問題を扱おうとしてきました。

その仮説を証明するための状況証拠は、すでにいくつか見つかっていました。しかし、いずれも決定打とはなりませんでした。そんなタイミングで降ってわいたニュースに、多くの人が膝を打ったことでしょう。
やっぱり、か――。
ですが、日本のメディアの「不備を認めた」との解釈には、ちょっと首を傾げざるを得ません。私自身も同じ記事を読んでいたのですが、そこから「習近平が不備を認めた」といったニュアンスをくみ取ることは、とてもできなかったからです。

元となった記事は2月3日に新華社が報じたもので、中央政治局常務委員会における習近平の重要講話です。文章は全部で3000文字を超えていて、「相変わらずこの人はよくしゃべるな」という印象と同時に読む労力にげんなりさせられたものです。

講話は、全体として前線で働く人や全人民に対し、「この感染症との戦いに負けるな」とげきを飛ばしたものか、或いははっぱをかける目的で出されたもので、とても謝罪とか認罪を目的として出されたものだとは思われません。

冒頭に、この問題を党中央が重視していることを強調し、その上で感染症を抑え込むためには党中央の下での統一行動が必要だと説き、現地医療の需要に応え、全組織が全力で対処法に取り組めと呼びかけ、それと同時に食品の安定確保や流通・移動手段の安定を保ち、さらに流言飛語を徹底して取り締まらなければならない、としているのです。表現は正確ではありませんが、こういう内容が延々と記されています。

その上でやっとそれらしき言葉になるのですが、まず前提として「この感染症は、われわれのガバナンス能力を試す一つの大きな試験である」との位置づけがあるのです。同じ講話をもとに書かれた『ウォールストリートジャーナル』の記事のタイトルも、
Coronavirus Outbreak a Major Test of China’s System, Says Xi Jinping」です。

これを受けて「この感染症への対処のなかで露呈した弱さと不足を補い、国家の緊急管理体系を整え、突発的な危機に対応する能力を高めなければならない」と続きます。「弱さと不足」を不備とすることは可能でしょうが、これはむしろ結果として感染が広がっている現実を指していると解釈すべきなのではないでしょうか。

少なくとも鬼の首を取る代物ではありません。