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一帯一路のあとさき


2021年2月
吉野文雄


一帯一路は中国が2013年に始めた中国から欧州、アフリカを対象とした構想である。地域経済の開発と連携を目指した構想だが、中国政府が用語を定義しないので、さまざまな期待が増幅したり、必要以上の脅威が拡散したりした。ここへきて、東南アジアでは実態に合わせて、期待や脅威が収束している。

インドネシアで2014年の第1次ジョコウィ政権発足後、日本の提案を退けて中国の高速鉄道敷設計画が採択された。ジャカルタとバンドンの間の140㎞である。2019年開業を目指して2016年1月に着工したが、5年を経ていまだ土地収用ができていない区間が残る。
タイでは、バンコクとナコンラチャッシマを結ぶ250㎞の区間の工事の契約が半年遅れて2020年10月に締結された。これはラオスを突っ切って昆明に伸びる高速鉄道の区間である。

鉄道だけではなく、東南アジアにおける一帯一路構想は多岐にわたっている。ミャンマーのチャオピューの港湾建設や、同じくミャンマー、カンボジアの火力発電所建設など、インフラ整備で中国の躍進が目立つ。しかし、ここで取り上げた2つの高速鉄道同様に、多くのプロジェクトが障害にぶつかっている。

最大の障害は新型コロナウイルス感染症で、これは一帯一路に限らず、あらゆるインフラ整備事業を遅滞させている。債務の罠に陥りたくないという東南アジア側の警戒姿勢もまた障害となっている。ラオスはすでに債務負担の軽減を中国に求めたと伝えられている。ミャンマーではチャオピュー港湾建設費用を73億米ドルから13億米ドルまで縮小した。

中国の計画の甘さも指摘されている。インドネシアの高速鉄道がその例であり、分権的な民主主義国における土地収用の困難を甘く見ていたようだ。

しかし、これで一帯一路構想が中途半端に終わるわけではなかろう。なによりもインフラ整備が主眼の構想であるから、債務が増えようが、障害があろうが、完工すればインフラは残る。そのときにまた新たな問題も起きそうである。

昆明とバンコクを結ぶ高速鉄道だが、ラオス国内の乗降客はどのくらいいるであろうか。瀬戸内海に橋を架けるとき、橋が通る島々の住民は人々が都会からやってくると見込んだようだが、完成した橋は島から若い人たちが都会に出ていくためのものとなった。

私は、5年ほど前に一帯一路構想の一環として建設が予定されているマレーシアの半島部東海岸高速鉄道の敷設予定地を車で回った。とても高速道路が求められているという趣ではなかった。公共輸送機関としてはすでにある高速バスで十分だし、なによりマレーシアの人々は自家用車での移動を好むからである。

建設したインフラが廃墟と化さないことを望みたい。