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朝鮮半島情勢に変化の兆し?


2021年12月
武貞秀士


北朝鮮動向で9月に重要な動きがありました。ひとつは軍事分野です。9月、北朝鮮は先端技術を活用した新型の巡航ミサイル、弾頭ミサイルを発射して、軍事技術が確実に向上したことを見せつけました。同じ9月、指導者の金正恩総書記の妹、金与正氏が国家の重要ポストである国務委員に就任して指導部の中心的存在であることが確認されました。金与正氏は「朝鮮戦争の終戦宣言や南北首脳会談など関係改善に向けた問題も建設的論議を経て早期に解決可能」と述べて韓国との対話の扉を開けていることを示唆しました。ミサイル発射と対話という硬軟両用策です。

これは北朝鮮内部でタカ派とハト派が対立している結果ではありません。指導者が軍部を統率していないからでもありません。この硬軟両用のスタイルは金日成時代から続いているものです。核兵器開発を続けながら米朝関係正常化を図り、在韓米軍撤退を促進し、北朝鮮の体制強化した状態で朝鮮半島統一に向けて進む方針です。米国の首都に届く弾道ミサイルを保有すれば、米国が朝鮮半島への軍事介入はリスクが高いことを知り、朝鮮半島への軍事介入をあきらめるという北朝鮮の計算は、金日成時代からの核戦略なのです。

しかし、北朝鮮主導の統一であるかぎり、どこかの段階で韓国と北朝鮮の軍事衝突が起きます。そのとき朝鮮戦争で3万3千人余りの戦死者を出した米国は「朝鮮半島のことは韓国と北朝鮮に任せる」というわけにはゆきません。自由主義国家である韓国が主導して統一が実現することを願い、それまでは紛争を抑止するために在韓米軍が駐留しているのです。

いま朝鮮半島では3つの変化が起きつつあります。一つ目は米国が「世界の警察官であることはやめた」と言い出したことです。アフガンから米軍は撤退しました。二つ目は文在寅政権を含む韓国の革新与党は「南北交流を通じて平和的な経済統合から政治統合に進む」との統一政策をとっています。三つ目は北朝鮮の政策を支持する中国は、北朝鮮の核兵器開発を放棄させることにあまり熱心ではありません。中国は米国を牽制しつつ、中韓経済関係と中朝政治関係を強化しています。

この3つの変化を北朝鮮はチャンスと考えています。北朝鮮は経済状態が悪く、食糧不足と電力不足に悩みながらも、ミサイルと対話という硬軟両用策をとるのは朝鮮半島の構図に変化ありと見ています。そして、文在寅大統領の国連演説と金与正氏の談話を契機に「朝鮮戦争の終戦宣言」に関心が集まってきました。