グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  中国の目で見たウクライナ戦争

中国の目で見たウクライナ戦争


2022年5月
富坂 聰
 「もしわれわれが中国を敵と見なせば、彼らは敵に変わる」。この言葉はロシアに対しても当てはまる――。

 ロシアの暴挙が連日大きく報じられる日本で聞けば、ロシアの代理人の言葉かと勘違いされそうです。しかし、そうではありません。中国『人民日報』の記事(2014年)の一部抜粋で、発言は米政権で大統領補佐官を務めた政治学者・ズビグネフ・カジミエシュ・ブレジンスキーです。

 中国の党機関紙がロシアを擁護しアメリカを批判する記事のなかでブレジンスキーの言葉を用いるとは不思議ですが、珍しいことではありません。むしろ中国の常套手段で、ジョージ・ケナン元米外交官やヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は常連です。中国がこの時代のアメリカの政治家を好み、尊敬しているから当然です。

 逆にニクソン記念図書館前で「全体主義VS民主主義」と演説したマイク・ポンペオ前国務長官のような政治家を心から軽蔑しトランプ政権以後のアメリカも嫌悪の対象です。

 中国は「かつてのアメリカならロシアのウクライナ侵攻を防げた」と言いたいようで、ケナンならば「勝過ぎない」優れた対外政策でロシアを導けたとする論評もよく見ます。

 中国のウクライナ戦争に対する考え方を整理すれば、その敗者はロシアとウクライナ、そしてEUです。一方の勝者はアメリカですが、それも短期間の勝利で、最終的には世界が「みな敗者となる」という視点です。

 アメリカの短期的勝利を崩し世界が敗者となるきっかけは言うまでもなく経済制裁です。サハリンⅡから撤退こそしなかったものの日本が受けた影響からも推察できます。

 原油の対ロ依存度が極めて高い欧州はどうでしょう。4月22日、『ワシントン・ポスト』は「リモートワークとエアコンの温度設定でプーチンのメッキをはがそう」と題した記事を掲載しました。そんな必死な戦いです。バイデン政権の財務長官イエレン氏も、「ロシアに対するエネルギー禁輸は、ヨーロッパにとって悪い影響の方が大きい」(『THE HILL』4月21日)と語りました。ドイツの中央銀行は、もしロシアからのエネルギーを禁輸すればドイツ経済は金額にして1650億ユーロ、GDPの割合で約5%の収縮となるとの予測を月報に載せました。物価上昇は制裁で加速し、消費というアメリカ経済最大のエンジンをも冷やすことになるのでしょう。

 それでもロシアに有効であればまだ我慢もできましょうが、通貨ルーブルは侵攻前の水準まで回復しています。米ニュース誌『フォーリン・ポリシー』も「なぜロシア経済は持ちこたえているのか」と、制裁の不発を前提に分析記事を載せています。

 習近平国家主席は3月のジョー・バイデン大統領とのオンライン会談で、制裁についての中国の考え方をこう説明しました。
「全方位的で無差別的な制裁を実施すれば、苦しむのはやはり一般の人々だ。事態がさらにエスカレートすれば、世界の経済貿易、金融、エネルギー、食糧、産業チェーン・サプライチェーンなどに深刻な危機をもたらし、元々困難に陥っていた世界経済をさらなる困難へ追いやることになり、取り返しの付かない損失をもたらすだろう」

 正論だと思いますが、この発言も日本のメディアにかかると、「ロシアに配慮して態度を曖昧にしている中国」となってしまうのですから恐ろしいですね。これ、ほぼ誤報です。

 いずれにしても中国は少し引いてウクライナ戦争をみている印象を拭えません。その真意は、巻き込まれを警戒しているのでしょうか。それとも本格的な世界経済の衰退期や大きな争に備え始めたということでしょうか。

この1年ほど、中国が食料安全保障を強く呼びかけ、農業生産を経済指標に加えて前面に押し出していることは気になります。