グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  「希望のマネジメント」に意を注いだ・私の見た安倍総理

「希望のマネジメント」に意を注いだ・私の見た安倍総理


2023年5月
谷口智彦
 安倍元総理がその生を突如奪われて、早くも1年が経とうとしています。
 第1期政権の時期(2006-07年)、筆者は外務省にあって、時の外相や首相のため外交政策演説の起案をする仕事をしていました。
 2007年の8月、安倍総理が訪印しインド国会で演説なさるというので、案文を拵えました。
 今は昔です。当時外務省の担当部局には、インドに対してかくかくを打ち出したい、しかじかを言いたいという強いアイデアが、ありませんでした。おかげで、自由に書けました。
 「2つの海の交わり」という題のもと安倍総理が話されたその演説は、やがて人口に膾炙する「インド太平洋」概念の、さらにいえば「FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」構想の、始まりをなしました。そしてこれが同総理と私の、仕事を通じた出会いでした。
 その後第2期政権において、安倍総理が私などを用いながら演説によってどんな新境地を開いたかについては、拙著『安倍総理のスピーチ』(文春新書)をご覧ください。
 同総理が持病の再発を経て退任すると、また、後に同総理を喪うと一層、自分がどれほど安倍晋三という人間のことばかり思って、朝に夕に、日々送っていたかに気づきます。我ながら唖然としたこと、一再ならずでした。
 というのも、安倍氏の言葉を紡ぐという職務の必要から、安倍総理を観察しては、ああだ、こうだと仮説を立てたり想像することが習いとなり、いつしか性と化していたのです。観察の集大成は、『誰も書かなかった安倍晋三』(飛鳥新社)という本にしてあります。
 私が見た安倍氏は外交家であって戦略家でした。マクロ経済に関心を払い続けた経世済民の人でもありました。第2期政権において際立った点は、一方は他方なくして存し得ないまで一体となっていたところです。
 思えば当然です。強い経済がなければ歳入が増えず、防衛費に予算をつぎ込めません。
 経済成長には、先行きへの期待、「希望」が絶対不可欠です。未来に希望がもてれば、若い男女は子どもをつくり、育ててみようと思うでしょう。それが、経済成長を促します。
 その時は自衛隊をより強くでき、外部環境をそれだけ安全、安定にすることができます。
 因果のループを、このようにポジティブに、相互に強め合うよう回らせること。それこそは政治の目的なのだという点に、安倍氏は政権を担ううち、曇りのない確信を抱きます。
 安倍外交とアベノミクスは、表裏一体にして不可分でした。強調しておきたく思います。