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尹錫悦政権の現在位置と次期国会議員選挙の意味


2023年7月
梅田皓士
 韓国では、2022年5月に尹錫悦政権が発足しました。韓国の大統領は任期が5年一期までとされているため、尹錫悦大統領は、これから5年間政権を担います。しかしながら、議会は共に民主党が過半数の議席を占めているため、政権運営は容易ではありません。
 少数与党の中で、尹錫悦大統領は必ずしも、法案通過を必要としない分野に力を入れており、その一つが外交です。文在寅前政権では、南北関係改善を第一の目的とした外交が行われていましたが、尹錫悦政権では、米国、日本への接近という伝統的な保守政権の外交姿勢に回帰しました。特に、対日関係では、前政権で「史上最悪の日韓関係」と称されるほど関係が悪化し、首脳会談を開催できないほどでした。関係悪化の最大の要因は旧朝鮮半島出身労働者問題(徴用工問題)でした。
 尹錫悦大統領は、この問題について、韓国政府傘下の財団が被告企業に代わり原告に賠償金「代位弁済」で解決させました。財団から原告企業に対する求償権は残りますが、尹錫悦大統領はこれを行使しない方針を示し、日本側も理解を示しました。この後、日本が行っていた輸出管理上の区分の「グループA」(旧ホワイト国)に韓国を復帰させたり、通貨スワップを再開するなど、日本側も韓国に応える対応をしました。
 一方で、福島第一原発の「処理水」放水をめぐる問題では、尹錫悦政府は容認する方針ですが、共に民主党、世論が強く反発しています。特に、世論の反発は大きく、放出前の駆け込み需要で天然塩の価格が前月比で約30%上昇するなどの問題も起きています。共に民主党は、「処理水」問題を尹錫悦政権への攻撃材料としており、中には、日本の首相官邸前でデモ活動を行った議員もいました。
 さらに、共に民主党は中国も巻き込み、この問題を拡大させる動きを見せています。李在明代表が駐韓国中国大使と面会して、共に反対する姿勢を示すなどの行動を行っています。この動きには尹錫悦政権は内政干渉と反発し、対中関係悪化の材料にもなりました。
 このような中、国内問題では、文在寅前政権の高官への捜査、李在明共に民主党代表の疑惑の捜査の他。過激な労働運動を行う労働組合への捜査を行うなど、革新勢力への攻勢を強めています。これは、2024年4月に国会議員選挙が予定されているため、無党派を野党や革新勢力から引き離そうとする動きにも見えます。
 内政では、今年3月の与党の全党大会で親尹錫悦の施行部ができました。そのため、次期国会議員選挙は、与党が過半数を獲得した場合、議会運営の他、党運営も大統領のコントロールが強くなり、政権運営は容易になります。しかし、与党が過半数を獲得できなかった場合、親尹錫悦派の執行部は総退陣となり、非尹錫悦派の執行部ができる可能性が極めて高くなります。この場合、尹錫悦政権は急速にレームダックが進むのは間違いありません。
 この意味で次期国会議員選挙は尹錫悦大統領にとって「天国」と「地獄」の岐路と言えるでしょう。