グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  アラブ諸国はガザ戦闘をどう見ているか

アラブ諸国はガザ戦闘をどう見ているか


2023年11月
野村明史
 2023年10月7日、ガザの武装組織ハマスがイスラエル側へ越境攻撃を行いました。

 イスラエルの諜報機関は事前に警告を受けていましたが、ハマスの行動は予想外でした。イスラエルのネタニヤフ首相は戦争状態に入ったと発表し、予備役兵を招集して、ガザでの戦闘を激化しています。

 ハマスの攻撃は、攻撃した時点で目的を達成したと言えます。圧倒的に優位な軍事力を有するイスラエルを相手に本格的な戦闘を望んだわけではなく、存在感を示し、停滞した状況を打破することが狙いだったと言えるでしょう。イスラエルとの戦いは防戦一方です。人質はイスラエルの攻撃を緩和し、戦争を早く終わらせるためのカードでした。

 今回のハマスの攻撃は、中東の構図を大きく変えようとしています。サウジアラビアはイスラエルとの国交正常化交渉を進めていましたが、ハマスの攻撃で凍結しました。アメリカはイスラエルの自衛権を支持しましたが、これは来年の大統領選挙を意識したものでした。アメリカは中東地域を安定させることで、中国とロシアに集中しようとしていましたが、ハマスの攻撃でその計画が狂いました。

 アラブ諸国はハマスの攻撃に対して難しい立場にあります。アラブ諸国の民衆は、アメリカのダブルスタンダードに怒っています。ウクライナ戦争ではアメリカがウクライナを支援しましたが、シリアやガザで多くの死傷者が出ている現状にはあまり関心はありません。10月の戦闘以来、ガザ住民の死傷者は、2万人近くにまで増えています。

 ハマスの攻撃は許されるものではありませんが、多くのガザ住民の死傷者が出ている状況に同胞意識の強いイスラーム教徒は見て見ぬ振りをすることはできません。アラブ諸国はこうした声を無視することもできません。アメリカからの圧力を受けながらもサウジやUAEはイスラエルを批判しています。こうした民衆感情を配慮しなければ、デモだけでなく、過激派の台頭や為政者への暗殺を誘発することになります。

 イスラエルはハマスを殲滅すると言っていますが、ハマスの主要幹部はカタールにいます。アラブ諸国はネタニヤフの政治的生き残りをかけたパフォーマンスの一環と冷ややかに見ています。たとえ、今回ハマスの戦力を限りなく削いだとしてもまた数十年経てば、体制を立て直し再びイスラエルへ攻撃を仕掛けてくることも否定できません。約20年前にインティファーダーを経験したヨルダン川西岸地区もしばらく大きな騒乱は起きませんでしたが、昨年、若者を中心とした新たな武装組織が誕生し、活動を広げています。

 憎しみは連鎖していくものです。

 テロは断じて許されませんが、その一方で、「人を追い詰めれば何をするかわからない」ということも西側諸国はもっと学ぶべきでしょう。