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プーチン体制は「クルスク」で始まり、「クルスク」で終わる


2024年9月
名越 健郎
 ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍が8月6日、隣接するロシア領クルスク州を攻撃し、約1000平方キロを支配したことは、唐突かつ意表を突く作戦で、プーチン政権にとって屈辱となりました。
 ウクライナ軍侵攻の経緯は謎が多く、現地駐留のロシア軍将兵数百人はすぐ投降し、ほとんど抵抗しませんでした。ロシア軍上層部が抵抗しないよう指示したとか、ウクライナ軍の侵攻を事前に知りながら、クレムリンに通報しなかったとの情報がロシアのSNSで流れています。
 ロシアの「ゴスドゥムスカヤ」という反政府系サイトはこの経緯について、「プーチンは表向き平静を装っているが、内心はパニックだ。彼はこれを『将軍たちの陰謀』と考え、ロシア軍をもはや信用していない」と書いていました。
 4月以降、ショイグ前国防相系の国防次官や局長ら15人が更迭され、多数の幹部が逮捕されるなど、軍粛清の影響があるかもしれません。
 プーチン大統領は8月12日に安全保障担当幹部を招いて会議を開き、クルスク州の解放を「反テロ作戦」と位置付け、軍、国境警備隊、連邦保安庁(FSB)、国家親衛隊の4 組織が共同で対処するよう指示しました。
 ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と称したように、クルスク州占領も「テロ攻撃」とし、「戦争」とみなしていません。当面は局地的な限定攻撃と過小評価していますが、ロシア国内では政権への不信感も強まっています。
 ウクライナ側が今回、大胆な占領作戦に出た背景としては、①国内の士気を高める②ロシア国内を混乱させる③不利な東部からロシア軍を転戦させる④和平交渉で優位に立つ⑤武器援助を行う欧米諸国へのアピール―などが考えられます。昨年6月に開始した反転攻勢の失敗以降、ウクライナ国内には閉塞感が漂っていたので、雰囲気を変える効果がありました。
 しかし、ロシア側が倍返しの報復を行う可能性もあり、複数の欧米メディアは「ギャンブル作戦」と書いていました。
 注目点は、第二次世界大戦以来初めてロシア領が外国に制圧されたのに、プーチン政権の出方が鈍いことです。2000年8月にバレンツ海で起きた原潜「クルスク」の沈没事故では118人が亡くなり、就任直後のプーチン大統領は対応の不備をメディアで批判されました。
 「プーチン政権はクルスクで始まり、クルスクで終わる」という不気味な予言をロシアのSNSで見つけました。