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タイ・ペートンタン政権の課題


2024年9月
吉野 文雄
 タイの政治が不安定化したのは、長い目で見れば今世紀に入ってからと言えるし、直近の動きを見ると昨年5月の総選挙後とも言えよう。
 昨年8月、国軍出身のプラユット首相が退任し、連立与党を代表する貢献党のセタ首相が就任した。1年を経て、この8月にセタ首相は憲法裁判所の判断によって失職し、貢献党の党首を務めていたペートンタン・チナワットが第39代首相に就任した。
 ペートンタン首相の父親は第31代首相のタクシンであり、タクシンの実妹である第36代首相のインラックは叔母にあたる。
 東南アジア諸国でよく見うけられることだが、軍部が政治に影響力を持っており、裁判所の力が強い司法国家であり、政党に理念がなく選挙のたびに合従連衡を繰り返し、世襲政治家が輩出する土壌がある。
 タイの場合は、これに王制が加わる。昨年の総選挙で、前進党は王室に対する不敬罪改正を公約に掲げたところ、憲法裁判所が国家転覆の恐れありと解党処分が下された。前進党は国民党と名を変え換骨奪胎生き延びた。
 貢献党は国軍支持政党に対する対立軸上にある国民党と連立するのが筋だった。しかし、迷走の末貢献党は犬猿の仲であった国軍支持政党と連立与党を構成することになった。
 さて、混乱のなかで就任したペートンタン首相は就任時37歳、タイ史上最も若い首相であり、インラックに次ぐ2人目の女性首相である。
タクシン元首相の血筋であるから彼女は100%華僑であり、チュラロンコン大学政治学部を卒業後父親のおこした企業の経営などに携わっていた。2021年になって貢献党に役職を得、政治家としてのキャリアが始まった。
 短いキャリアなので政権運営を心配する向きもあるが、貢献党の実質的なオーナーである父親がアドバイスするので心配無用との見方もある。
 いずれにしてもペートンタン政権は長くとも2027年と目されている次の総選挙までの寿命と考えられている。それまでには、現在すべての判事が国軍とつながっている憲法裁判所の判事にも変化は出るであろうし、貢献党と国民党の関係も改善するであろう。
 ただ、変化を期待できないのが王室であり、不敬罪もそうだが国王の政治介入も不安定要因である。一方で政治の混乱が続く状況でも経済成長が堅調なのは、タイの官僚が有能であるからであるという評価もあり、これも変わらなければペートンタン首相の政権運営を心配する必要はなかろう。