止まらない中国人民解放軍最高幹部の汚職
2024年12月
門間 理良
門間 理良
中国人民解放軍最高幹部の失脚が止まらない状態が続いています。魏鳳和元国防部長(元中央軍事委員会委員)が、2024年6月に中国共産党中央政治局会議で収賄や規律違反の容疑で党籍剥奪処分が下され、中央軍事委員会も解放軍からの除名と上将の階級取り消しを決定しました。また、2022年10月に中共中央軍事委員会委員に任命され、その翌年3月に魏鳳和国防部長の後任となっていた李尚福国防部長(上将。中共中央軍事委員会委員)にも、魏鳳和と同時に同様の処分が下されています。
そして今回は、苗華中央軍事委員会政治工作部主任(海軍上将)の「重大な規律違反」による停職検査が2024年10月28日に公表されました。苗華は現職の中央軍事委員会委員なので、今年に入って魏鳳和、李尚福に続く解放軍最高幹部(経験者)の失脚です。違反内容の詳細はまだ明らかにされていませんが、おそらくは汚職でしょう。
上記3人は、習近平が中央軍事委員会主席に就任してから上将に昇進させた軍人でもあります。汚職などの規律違反の可能性についても本来なら「身体検査」済だったはずですが、それにも拘わらず、これだけ軍の最高幹部が続けざまに失脚となると、解放軍高官で汚職に手を染めない者はいないと考えた方が自然です。
解放軍において反腐敗闘争(汚職摘発)を進めるのは中央軍事委員会規律検査委員会で、現在は中央軍事委員会委員である張升民上将が書記(トップ)を務めています。規律検査委員会は習近平の進める軍改革で、四総部を解体し現在の15部門制にしたときに総政治部から独立して発足しました。それまでの規律検査委員会は総政治部の下に位置づけられていたために、十全に機能していなかったと見られていました。それが、反腐敗に力を入れる習近平の軍改革で中央軍事委員会が直接指導する体制となり、独立性と権威が高まったとされています。
反腐敗闘争は現時点で習近平が唯一中国民衆に誇示できる成果です。軍高官を含めて聖域を設けずにこれを継続していくことが重要であることを習は認識しているでしょう。だからこそ、規律違反した軍高官の摘発は続けられていると見ることができます。主要なターゲットとなった職種は、最近はロケット軍(旧第二砲兵)、中央軍事委員会装備発展部(旧総装備部)です。これらの職種で現職・元職を問わず摘発が進められ全国人民代表大会代表免職措置が取られてもいます。この周辺にある国営企業幹部の全人代代表にも同様の処分が下されています。
ところが、苗華は政治工作部門出身で、胡錦濤が中央軍事委員会主席を務めていた当時に同副主席を務めた徐才厚に職種的に近いポジションの人物とも言えます。徐才厚が軍籍を剥奪されたのが2014年。それから10年が経過しています。空軍司令員を務めた丁来杭も2023年12月に全人代代表を罷免されているので、解放軍内のあらゆる部門において、依然として汚職が生まれる構造があり、それには手がつけられていないことが想像できます。そうなると、習近平の竹馬の友とされる解放軍制服組トップ、張又侠中央軍事委員会副主席も安閑としていられないかもしれません。
なにしろ張又侠は5年間総装備部部長を務めていたのです。汚職が蔓延している解放軍の中でも、装備開発や取得に関わって巨大な利権が動き、摘発される高官が多い総装備部のトップにいた張又侠は、ただ一人清廉潔白に日々を過ごしていたのでしょうか。習近平は張又侠に疑いの目を向けている可能性もあります。ちなみに張升民も政治委員畑ですが、第二砲兵で出世してきた軍人です。張升民と言わなくても、解放軍の規律検査委員会幹部が摘発されることになったら、軍の権威は大いに傷つけられることになるでしょう。既に地方の党規律検査委員会幹部が逮捕された事例をあります。軍の規律検査部門だけは清浄であるなどと断言することはできません。
汚職はどこの国でも起こりえます。しかし、最高幹部の汚職の連続発生や収賄金額の膨大さは、西側各国の軍隊では到底考えられないレベルに達しています。これは中国共産党が自らをすべての組織の頂点に立つように位置付けたシステムを採用しているからです。それは中国共産党幹部の暴走にブレーキをかける存在がないことことを意味しています。党内に設けられた規律検査委員会というシステムでも汚職を生む構造には切り込めていないようですし、発覚した汚職への対応に明け暮れるのみです。今後も解放軍や党中央における汚職は止まることはないでしょう。そして、それは徐々に中国共産党や反腐敗を旗印とする習近平の権威をも侵蝕していくことになるように思われます。
そして今回は、苗華中央軍事委員会政治工作部主任(海軍上将)の「重大な規律違反」による停職検査が2024年10月28日に公表されました。苗華は現職の中央軍事委員会委員なので、今年に入って魏鳳和、李尚福に続く解放軍最高幹部(経験者)の失脚です。違反内容の詳細はまだ明らかにされていませんが、おそらくは汚職でしょう。
上記3人は、習近平が中央軍事委員会主席に就任してから上将に昇進させた軍人でもあります。汚職などの規律違反の可能性についても本来なら「身体検査」済だったはずですが、それにも拘わらず、これだけ軍の最高幹部が続けざまに失脚となると、解放軍高官で汚職に手を染めない者はいないと考えた方が自然です。
解放軍において反腐敗闘争(汚職摘発)を進めるのは中央軍事委員会規律検査委員会で、現在は中央軍事委員会委員である張升民上将が書記(トップ)を務めています。規律検査委員会は習近平の進める軍改革で、四総部を解体し現在の15部門制にしたときに総政治部から独立して発足しました。それまでの規律検査委員会は総政治部の下に位置づけられていたために、十全に機能していなかったと見られていました。それが、反腐敗に力を入れる習近平の軍改革で中央軍事委員会が直接指導する体制となり、独立性と権威が高まったとされています。
反腐敗闘争は現時点で習近平が唯一中国民衆に誇示できる成果です。軍高官を含めて聖域を設けずにこれを継続していくことが重要であることを習は認識しているでしょう。だからこそ、規律違反した軍高官の摘発は続けられていると見ることができます。主要なターゲットとなった職種は、最近はロケット軍(旧第二砲兵)、中央軍事委員会装備発展部(旧総装備部)です。これらの職種で現職・元職を問わず摘発が進められ全国人民代表大会代表免職措置が取られてもいます。この周辺にある国営企業幹部の全人代代表にも同様の処分が下されています。
ところが、苗華は政治工作部門出身で、胡錦濤が中央軍事委員会主席を務めていた当時に同副主席を務めた徐才厚に職種的に近いポジションの人物とも言えます。徐才厚が軍籍を剥奪されたのが2014年。それから10年が経過しています。空軍司令員を務めた丁来杭も2023年12月に全人代代表を罷免されているので、解放軍内のあらゆる部門において、依然として汚職が生まれる構造があり、それには手がつけられていないことが想像できます。そうなると、習近平の竹馬の友とされる解放軍制服組トップ、張又侠中央軍事委員会副主席も安閑としていられないかもしれません。
なにしろ張又侠は5年間総装備部部長を務めていたのです。汚職が蔓延している解放軍の中でも、装備開発や取得に関わって巨大な利権が動き、摘発される高官が多い総装備部のトップにいた張又侠は、ただ一人清廉潔白に日々を過ごしていたのでしょうか。習近平は張又侠に疑いの目を向けている可能性もあります。ちなみに張升民も政治委員畑ですが、第二砲兵で出世してきた軍人です。張升民と言わなくても、解放軍の規律検査委員会幹部が摘発されることになったら、軍の権威は大いに傷つけられることになるでしょう。既に地方の党規律検査委員会幹部が逮捕された事例をあります。軍の規律検査部門だけは清浄であるなどと断言することはできません。
汚職はどこの国でも起こりえます。しかし、最高幹部の汚職の連続発生や収賄金額の膨大さは、西側各国の軍隊では到底考えられないレベルに達しています。これは中国共産党が自らをすべての組織の頂点に立つように位置付けたシステムを採用しているからです。それは中国共産党幹部の暴走にブレーキをかける存在がないことことを意味しています。党内に設けられた規律検査委員会というシステムでも汚職を生む構造には切り込めていないようですし、発覚した汚職への対応に明け暮れるのみです。今後も解放軍や党中央における汚職は止まることはないでしょう。そして、それは徐々に中国共産党や反腐敗を旗印とする習近平の権威をも侵蝕していくことになるように思われます。
新疆生産建設兵団成立70周年大会で党中央、国務院、中央軍事委員会からの祝辞を読む苗華中央軍事委員会委員(2024年10月7日)
出典:中華人民共和国国防部ウェブサイト