155分間の戒厳令(ラブレター)
2024年12月
梅田 皓士
梅田 皓士
12月3日の晩に突如、尹錫悦韓国大統領が非常戒厳令を出すと宣言しました。非常戒厳令は、韓国の憲法で「大統領は戦時·事変又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ、又は、公共の安寧秩序を維持する必要があるときには法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる」(第77条1項)と定められています。
今回、尹錫悦大統領は、非常戒厳令を出す理由として主に以下の3点を挙げました。
① 野党側が来年度予算を一方的に削減した
② 野党側が政府官僚に22件の弾劾を行い、行政府を麻痺させた
③ 判事を脅迫して、多数の検事を弾劾して司法業務をまひさせた
その上で、これらを行った野党陣営を北朝鮮に従う勢力(従北勢力)と規定して、この勢力が韓国の自由民主主義体制を覆そうとしていて、これが国家非常事態に当たるとして戒厳令を出しました。憲法で「国会が在籍者の過半数の賛成で戒厳令の解除を要求した場合、大統領は解除しなければならない」(第77条5項)と規定されているため、非常戒厳令が出されてから155分後に野党が中心となって国会で解除要求を与党議員も含む出席者190人の全会一致で可決させました。これを受けて尹錫悦大統領は発表から約6時間後に非常戒厳令を取り消し、ひとまず事態は収束しました。
今回の非常戒厳令に対して、野党側は憲法違反に当たるとして尹錫悦大統領の弾劾訴追決議案を提出し、内乱罪での告発も行いました。そして、12月7日に金建希夫人の特検法の再議決と尹錫悦大統領の弾劾訴追決議案の採決を行いました。結果として、特検法の再議決は与党が反対して賛成198票、反対102票で否決されました。また、弾劾訴追決議案は与党が欠席して総投票数が三分の二に満たなかったため、不成立になりました。与党が特検法の再議決には出席して反対したのに対して、弾劾訴追決議案には欠席したのは、再議決は「出席数」の三分の二の賛成で可決するため出席して反対しないと可決します。一方で弾劾訴追決議案は、「定員数」の三分の二の賛成で可決するため、欠席すれば自動的に反対と同じ扱いになることに加えて、投票は無記名で行われるため出席した場合、造反が出る可能性があるためです。出席しなければ反対もできません。
ここで問題となるのが、なぜ、非常戒厳令という、いわば「暴挙」に踏み切ったかです。確かに、2024年4月の国会議員選挙で野党が数を占める国会が形成され、政権運営が困難だったとしても、戦時や内乱等を想定した非常戒厳令を出すような事態に陥っていないことは明白です。その意味においても今回の非常戒厳令は「暴挙」と言えます。ここで重要なのが、金建希大統領夫人をめぐる問題です。金建希夫人は尹錫悦大統領が大統領候補であった時から様々な問題が指摘されてきました。例えば、経歴詐称、企業の株価操作などがありました。そのため、大統領選挙の最中に「涙の謝罪会見」を行い、今後、表立った活動を自粛すると述べました。しかし、尹錫悦政権発足後、自粛することなく表立った活動を続けた上に、高級バッグの受取、補欠選挙での候補者公認への介入などの疑惑も提起されました。
この金建希夫人の疑惑は、尹錫悦大統領の支持率が低い要因の一つでもあり、国会議員選挙での与党の敗北にも繋がりました。野党側は金建希夫人の疑惑の捜査のために、特別検察官を任命して捜査する法律案(特検法)を国会に提出して、複数回、可決させました。しかし、いずれも尹錫悦大統領が拒否権を行使して、三分の一を持つ与党が国会での再議決で反対して否決してきました。そのため特別検察官は任命されませんでした。
そして、今回も野党側が特検法を可決させ、尹錫悦大統領が拒否権を行使したため、再議決の日程を探っていた最中でしたが、いつ与党内から造反が出て可決されてもおかしくない状況でした。つまり、今回の非常戒厳令は、金建希夫人の特検法を阻止するとの目的もあったと言えます。大統領就任以来、常に金建希夫人を庇い続けてきた尹錫悦大統領が再議決での可決を防ぐ方法が今回の非常戒厳令だったのかも知れません。
尹錫悦大統領が非常戒厳令を出すと発表した際、「北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守り、自由な憲法秩序を守る」としました。本当に共産勢力の脅威があったとすれば、今回の非常戒厳令は自由社会を望む「国民へのラブレター」となったのでしょうが、実際には、金建希夫人への特検法を防ぐためでもあったと言えます。結果的に今回の非常戒厳令は「金建希夫人へのラブレター」であったと言えるのではないでしょうか。
野党側は次の国会でも尹錫悦大統領の弾劾訴追決議案を提出する姿勢を示しています。12月5日に世論調査会社リアルメーター社が行った世論調査では、弾劾賛成が73.6%、弾劾反対が24.0%と賛成が多数を占める状況となっています。この声が続くといつ与党から造反が出るか分かりません。今回の弾劾訴追決議案は否決されましたが、次の提出の時にはどうなるか分かりません仮に今後、弾劾訴追決議案が可決して、朴槿恵元大統領のように憲法裁判所で罷免の判決が出ら失職だけではなく刑事訴追の可能性も生じます。もしそうなると同じ時期に金建希夫人の特検法の可決する可能性も生じます。その場合、「金建希夫人へのラブレター」はどこからどこに送ることになるのでしょうか。
今回、尹錫悦大統領は、非常戒厳令を出す理由として主に以下の3点を挙げました。
① 野党側が来年度予算を一方的に削減した
② 野党側が政府官僚に22件の弾劾を行い、行政府を麻痺させた
③ 判事を脅迫して、多数の検事を弾劾して司法業務をまひさせた
その上で、これらを行った野党陣営を北朝鮮に従う勢力(従北勢力)と規定して、この勢力が韓国の自由民主主義体制を覆そうとしていて、これが国家非常事態に当たるとして戒厳令を出しました。憲法で「国会が在籍者の過半数の賛成で戒厳令の解除を要求した場合、大統領は解除しなければならない」(第77条5項)と規定されているため、非常戒厳令が出されてから155分後に野党が中心となって国会で解除要求を与党議員も含む出席者190人の全会一致で可決させました。これを受けて尹錫悦大統領は発表から約6時間後に非常戒厳令を取り消し、ひとまず事態は収束しました。
今回の非常戒厳令に対して、野党側は憲法違反に当たるとして尹錫悦大統領の弾劾訴追決議案を提出し、内乱罪での告発も行いました。そして、12月7日に金建希夫人の特検法の再議決と尹錫悦大統領の弾劾訴追決議案の採決を行いました。結果として、特検法の再議決は与党が反対して賛成198票、反対102票で否決されました。また、弾劾訴追決議案は与党が欠席して総投票数が三分の二に満たなかったため、不成立になりました。与党が特検法の再議決には出席して反対したのに対して、弾劾訴追決議案には欠席したのは、再議決は「出席数」の三分の二の賛成で可決するため出席して反対しないと可決します。一方で弾劾訴追決議案は、「定員数」の三分の二の賛成で可決するため、欠席すれば自動的に反対と同じ扱いになることに加えて、投票は無記名で行われるため出席した場合、造反が出る可能性があるためです。出席しなければ反対もできません。
ここで問題となるのが、なぜ、非常戒厳令という、いわば「暴挙」に踏み切ったかです。確かに、2024年4月の国会議員選挙で野党が数を占める国会が形成され、政権運営が困難だったとしても、戦時や内乱等を想定した非常戒厳令を出すような事態に陥っていないことは明白です。その意味においても今回の非常戒厳令は「暴挙」と言えます。ここで重要なのが、金建希大統領夫人をめぐる問題です。金建希夫人は尹錫悦大統領が大統領候補であった時から様々な問題が指摘されてきました。例えば、経歴詐称、企業の株価操作などがありました。そのため、大統領選挙の最中に「涙の謝罪会見」を行い、今後、表立った活動を自粛すると述べました。しかし、尹錫悦政権発足後、自粛することなく表立った活動を続けた上に、高級バッグの受取、補欠選挙での候補者公認への介入などの疑惑も提起されました。
この金建希夫人の疑惑は、尹錫悦大統領の支持率が低い要因の一つでもあり、国会議員選挙での与党の敗北にも繋がりました。野党側は金建希夫人の疑惑の捜査のために、特別検察官を任命して捜査する法律案(特検法)を国会に提出して、複数回、可決させました。しかし、いずれも尹錫悦大統領が拒否権を行使して、三分の一を持つ与党が国会での再議決で反対して否決してきました。そのため特別検察官は任命されませんでした。
そして、今回も野党側が特検法を可決させ、尹錫悦大統領が拒否権を行使したため、再議決の日程を探っていた最中でしたが、いつ与党内から造反が出て可決されてもおかしくない状況でした。つまり、今回の非常戒厳令は、金建希夫人の特検法を阻止するとの目的もあったと言えます。大統領就任以来、常に金建希夫人を庇い続けてきた尹錫悦大統領が再議決での可決を防ぐ方法が今回の非常戒厳令だったのかも知れません。
尹錫悦大統領が非常戒厳令を出すと発表した際、「北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守り、自由な憲法秩序を守る」としました。本当に共産勢力の脅威があったとすれば、今回の非常戒厳令は自由社会を望む「国民へのラブレター」となったのでしょうが、実際には、金建希夫人への特検法を防ぐためでもあったと言えます。結果的に今回の非常戒厳令は「金建希夫人へのラブレター」であったと言えるのではないでしょうか。
野党側は次の国会でも尹錫悦大統領の弾劾訴追決議案を提出する姿勢を示しています。12月5日に世論調査会社リアルメーター社が行った世論調査では、弾劾賛成が73.6%、弾劾反対が24.0%と賛成が多数を占める状況となっています。この声が続くといつ与党から造反が出るか分かりません。今回の弾劾訴追決議案は否決されましたが、次の提出の時にはどうなるか分かりません仮に今後、弾劾訴追決議案が可決して、朴槿恵元大統領のように憲法裁判所で罷免の判決が出ら失職だけではなく刑事訴追の可能性も生じます。もしそうなると同じ時期に金建希夫人の特検法の可決する可能性も生じます。その場合、「金建希夫人へのラブレター」はどこからどこに送ることになるのでしょうか。